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東京地方裁判所 昭和44年(行ク)43号 決定 1969年7月02日

申立人 台東タクシー株式会社

右代表者代表取締役 田村宇一

右代理人弁護士 江沢義雄

<ほか一〇名>

相手方 東京陸運局長 小林正興

右指定代理人 高橋正

<ほか四名>

主文

本件申立てを却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

第一本件申立

「相手方が、昭和四四年七月九日付六九東陸自一旅二第五二〇二号輸送施設の使用停止および付帯命令書をもって申立人に対しなした輸送施設(車輛)四輛(すなわち、足立五え七七二一、同五え七七二〇、足立五を二三六および同を五二六)の使用を同年七月二五日から同年八月一三日まで二〇日間停止する旨の行政処分の執行を本案判決まで停止する。」との決定を求める。

第二申立の理由

申立の理由は、別紙(一)(二)(三)および(四)記載のとおりであり、相手方の意見は、別紙(五)および(六)記載のとおりである。

第三当裁判所の判断

一、相手方が、タクシー営業を営む申立人に対し、いわゆる乗車拒否を理由として、申立人の主張のとおり輸送施設(タクシー車輛)の使用停止等の処分をしたことは当事者間に争いがない。

二、そこで、右処分によって生ずる回復困難な損害を避けるため右処分の執行を停止する緊急の必要があるか、どうかについて、検討する。

(一)  申立人は、前事業年度において約三五六万円の欠損を出しながら、なおかつ、自転車操業的に営業を継続しているものであって、借入金のため年間総売上げの六・二パーセントに達する利息を支出しているものであるところ、本件行政処分を執行されると、これにより、

(1) 営業停止期間中に得べかりし利益金七五万一、五二〇円の喪失

(2) 稼働不能のため申立人から離脱することが予想される運転者九・六人の代替要員を養成するに必要な経費金四八万一、一四二円の負担

(3) 右養成期間(平均二〇日)中に営業用車輛を営業に供し得ないことによって得べかりし利益金七五万一、五二〇円の喪失

など合計金一九八万四、一八二円の損害を蒙るばかりでなく、右現金収入減少のため新らたに総計金一四三万余の借入れをなす必要があるのに、現状において、これが非常に困難であることが予想されるから、もし、右借入れができず、申立人の支払手形が不渡りともなれば、倒産を免れず、これによって蒙る損害の回復は殆ど不可能であると主張する。

(二)  疎明によれば、申立人におけるタクシー一輛一日当りの売上げは金一万一、四七三円であることが認められるから、申立人が本件行政処分により喪失する利益の額は(タクシーを運行させないことにより支払いを免れる費用を申立人主張にしたがい、一応金二、〇七九円としても、)

(11473-2079)×4×20=751520(円)

であることが一応認められる。

そして、現今、タクシー運転者の労働力が払底し、タクシー業者がこれを獲得するに困難があることは公知の事実であるから、本件行政処分により、使用停止処分を受けた車輛を担当する運転者が就業できないため収入の減少を嫌って他の職場に離脱する可能性があることも推認し得るが、申立人が運転者の離脱を回避するには、他に特段の事情がない限り、運転者の収入を減じない措置を講じれば足りるものというべきであるから、申立人がこれがため蒙るべき損失は前記喪失利益額七五万一、五二〇円を出でないと考えるのが相当である。この点に関し申立人が運転者の離脱に備えるため運転者を養成するに必要な経費の負担および右養成期間中に喪失すべき利益額等の経済的損失を蒙る旨の申立人の主張は理由がない。

また、疎明によれば、申立人は昭和四三年の事業年度において約三五〇万円の欠損を出し、現在負債に対する利子として年間約九九〇万円の支払をなし、容易でない経営状況にあることを認めるに難くないが、申立人が本件行政処分により喪失すべき前記認定の利益額金七五万余円を補填する金銭を調達することができないことを認むべき疎明はなく、右金銭の調達不能により、申立人が、その主張のような経過で倒産し回復し難い経済的打撃を受けるであろうことについても疎明を得たということができない。

従って、結局、申立人が本件行政処分によって蒙るべき損害は、たかだか金七五万円余に止まり、金銭による補填が可能であるというべきであるから、行訴法第二五条第二項にいわゆる「回復困難な損害」にあたるものとは認めるに足りない。

三、よって、本件申立は他の争点について判断するまでもなく、理由がないから、これを却下することとし、申立費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 駒田駿太郎 裁判官 小木曽競 山下薫)

<以下省略>

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